距離ときより郷里。

「という訳で久々にたわ言でもかまそーかと思ってるんですが、貴女、遠距離恋愛ってどう思います?」ドサ
「……相席良いですかの一言も無いのね。まー良いわ。奢りならあたしに文句は無いもの。はいポチッとな」キンコーン
「逆ですよ。どうせ奢るならたわ言の一つや二つ付き合って貰わないと割に会わないってだけです。ああ、後注文は任せましたよ。今日はハンバーグセットでお願いします」オマタセイタシマシター
「はいはい。えっとハンバーグセットライスで一つとドリンクバー2つ。後チョコパフェ一つお願いします」カシコマリマシタードリンクバーハ…
「飲み物取って来ますけど」
「アイスティー氷三つで後ミルクで」
「へいへい。少し待っていて下さいね」
……カタン、タン
「今日は薄ら寒い話題ではありますが恋愛感について少々」
「珍しい話題ね。で、遠距離恋愛がどーとかだっけ?」
「ええ。隣の高校から果ては国外まで、数多の遠距離恋愛がありますが、貴女はどう思います?」
「どー思うも何もねぇ……。当人同士が好き合ってるならいいんじゃないの?よく遠距離恋愛は続かない、とは言うけど……サンプリング出来る程身内に体験談とか無いし。ああ、でも知ってる例は大概別れてるわね。でもそんなの遠距離だろうとそうでなかろうと同じだし……。もそも恋愛の結末が結婚で良いの? 結婚する恋愛が真実、なんて前時代的な思考にも程があるでしょうに。離婚なんて日常茶飯事。結婚が人生の墓場なんてのもよく聞くわ。大概の出来事は成立よりも破綻の方が簡単なんだし、別れも結末の一つだとは思うけど……」
「ちと前提が甘かったですか。そーですねぇ。とりあえず今回は、『恋愛が継続している』状態がベスト、として下さい。例え結婚したとしても相手のに嫌気がさして来た、飽きた等の感情が芽生えた時点でアウト。『お互いに好意を持ち合った状態の維持に努める事が恋愛』だと仮に定義するとしましょう。となると問いは、遠距離に居つつお互いに好意を維持出来るのか? となります」
「うーん……そういう状況になった事ないから解んないなぁ。でも遠距離恋愛から結婚って話も珍しくはないし……って自分でループしてるわね……」
「じゃあ少し迂回して。人は何に好意を抱くのか、って話題にしましょう。当然ですが大筋は忘れないで下さいよ」
「……どういうプレゼントが良かった、話題が悪かった、とかそういう筋じゃ無いって事よね。ファクターとしておおざっぱに、会うこと、触れること、話すこと、文字のやりとり、映像……になるともう怪しいかもね。後は思い出……とか? そういう行為に好意を抱くんじゃないのかなぁ? ギャグじゃないわよ」
「解ってますよ。さすがにそれらの要素が全て無かったとすると、もう相手を好きにはなれませんよね。触れず、声は聞けず、連絡は取れず、記憶にもない。そんなのはただの他人です。……では今度は逆に、何があれば好きでいられるのか考えて下さい」
「筋からして、会うこと、触れることは十分だとしましょうか。……それと、やっぱり動画はダメね。何にせよ、特定の個人と繋がろうと思ったら言葉か文字が必要だわ。姿形を映したモノだけでいいなら、不特定多数に向けたアイドルビデオを見ているファンとの間でも成立するじゃない」
「……ま、話は逸れますがそれはそれで一つのカタチではあるでしょうね。今回はそれほどまでに姿形と言うものは影響がある、程度に考えて欲しい所ですが」
「思い出もそうだけど、ソレってストーカー的な考え方に繋がらないかしら……」
「その辺の善し悪しは今回考慮外です。例えば不倫なども社会的に悪とされていますが、今回は主題が恋愛ですからね。目をつぶりましょう。恋は盲目ってヤツですよ。ま、上記の2例は一方通行になりがちですから、お互いに好意を持った状態がベストと定義を切っているので、成り立ちにくい、と判断するのが打倒ですね」
「結局ダメなんじゃない……。ま、思い出も映像もやりとりは出来ないものね。前提が好意の交差なんだし、やりとりは必須って事でいいかしら」
「ええもちろん」オマタセイタシマシターハンバーグセットニナリマスー
「後残ってるのは……話すことと文字のやりとり、だけど、これも電話と手紙、メールとか、って考えるわけね。で、今回の主題はこの辺にある、と。あ、パフェ持ってきてもらっていいですか?」カシコマリマシター
「前ふりが長くなりましたが、お付き合いありがとうございます。ここからが本題ですよ。ともかく。こういう要素を突き詰めると、結局好意ってなんなんだ、っていう話になるわけですよ。いちゃいちゃすることだ、とか、心が通じ合うことだ、などとね。で、そこには個人の恋愛感が挟まる。しかし恋愛感は人それぞれ、などと日和っていては面白くもないので、ここで勝手ではありますが個人的見解を述べさせていただきましょう。というわけでハンバーグを頂きます」カチャリ モグモグ
「ま、言うのは勝手だからね。どーぞお披露目くださいな」パフェオマタセイタシマシター
「結論から言うと、僕は好意というのは『距離』にあると思うのですよ」
「距離、ねぇ? で、遠距離恋愛は無理、という話に繋がるわけ?」
「端折りすぎですよ。僕は遠距離恋愛がダメだ、とは言っていません。僕の言うのは、その距離の捕らえ方自体は、人それぞれである、という事です。ただしどういう場合にせよ、その距離を近づけるための行為が好意なのだ、それが恋愛なのだ、そういう主張です。ギャグではないですよ」
「解ってるわよ。距離の捕らえ方、って、何よ? キロメートルがメートルだったりセンチメートルだったりするって事? 言葉遊び?」
「実際の距離を誤魔化すという筋では無いのですよ。僕が言っているのは、距離っていうのは何処と何処の距離を恋愛の距離にするのか、という事です。つまりは……」ヒョイ
「うわっ! きゅ、急に何、手握ってくる、わ、わけ?」
「これだけでもう十分に好意に値する人も居るわけですよ。というか、コレが最高値の人が。……つまり、触れていたい。手と手の距離が好意に換算されている訳です。そういう人はこうやって、手で触れることを願い、求めるでしょう。これがつまりは僕の言いたい恋愛感です」
「いい加減離しなさいっ」ペイッ
「ああ。すみませんでした。で……後は、わかりますね?」
「あー……、なんとなく。つまり、抱き合いたい、って人はお互いの体と体の距離を。見て欲しい、見ていたいって人は視線の距離を。言葉を聴いて欲しい、って場合は自分の口と相手の耳の距離を近づけたいと思ってる、って事でいいのかな?」
「伝わって頂けたようで嬉しいですよ。ちなみに残った二人にはもうメールで質問してあります。質問内容は、『貴方の理想の恋人を想像してみてください。恋人と自分で一番近づきたい、触れていたい部分は何処ですか?』 と。これが彼らの恋愛感(おへんじ)です」ペカー
「んー、えーと。『そりゃあもちろん思考だろ。脳みそ、いんや、精神とでも言い換えてもいい。肉体なんぞサルでも近づけるからな。後下らん会話をするなら次は俺も混ぜろ』……突っ込み待ちなのかしら?」
「そして貴方の妹さんは、これです」カチカチ
「なんで妹のアドレス知ってるのよ。……しかし、自分のことじゃないのに、なんだかこれは恥ずかしいわね……。えーと、『心臓、とかじゃないんですかね〜? ほら、ドキドキするって、心臓の鼓動ですし。胸が近いって、なんか恋愛っぽいですよ〜』……勘違いしてるのか、本気なのか解らない文章ねぇ」
「僕たちは結構バカにしてますが、意外と彼女は聡いですよ。というか、地に足がついている。ちゃんとその時点の自分で答えを出せる人だ。ほら、先輩なんてもう地に足がついてないのが丸解りでしょう? 思考が先に行ってしまうんですよ。言葉を借りれば脳みそで生きているような気になっているんでしょうね僕たちは。話がそれましたが、彼女も戯言につきあって長いですし、多少は理解してくれているでしょう。多分意識して……いや、意識しないようにしているような感があったりしますけどね」
「どーいう意味よ?」
「ま、それはおいおい。脱線し始めてきましたからまとめに入りましょう。つまるところ、僕は遠距離恋愛なんてモノは成り立たないと考えています」
「あれ? ついさっき、遠距離恋愛がダメとは言ってないって言ったばかりじゃないの?」
「物理的な距離の事を言っている訳ではないのですよ。まぁ、広義では文面通りですが。僕が言う遠距離というのは、各人が求めるモノの距離の事です。そしてその求めるモノ、というのが文頭で分けた好意の為の行為にあたるのですよ。妹さんが言うように、直接体の距離を求める人は多いでしょう。いや、それが普通の世界ではある。手をつないで、側に居て欲しいなんて、ありふれたラブソングだ。そして僕たちの主義通りに考えるなら、逆に考えれば。”気持ちは後から付いてくる”。側に居て欲しいから、好きになるんですよ。距離を近くに保って欲しい、ただそれが意識の源泉。神の証明じゃありませんが、好きだという理由を突き詰めれば全て、側に居て欲しい、に容易に変換出来るんですよ。だから物理的な遠距離恋愛が成立しにくい、と言われる所以はそこにあるのだと、愚考する次第」
「……なーんか釈然としないけど……。彼は優しいから、好き、ではなく側に居て欲しい、格好良いから側に居て欲しい、趣味が合うから側に居て欲しい、自分を大切にしてくれるから側に居て欲しい、って事? ちょーっとばかり牽強付会じゃなくて?」
「そんなのは最初っからですよ。強引な理論なのはいつも通りです。でも、文脈上はおかしくならないでしょう?」
「にゃんだかなぁ。ん、そういや、その筋とはまた逆の、言葉や文面だけの繋がりはどうするのよ?」
「先輩も言っていましたが、そこはやはり意識の距離、って事でまとめようかと。文章の、言葉のやりとりを通じて、お互いの価値観を近づける。その価値観同士の距離が求めるモノなんでしょう。好みとか、趣味とか、生活スタイルとか、そういうのも直接的に肉体を経由していませんから、それらはまとめて、心の距離、などとオサレに行こうと思います」
「十把一絡げすぎるわねぇ……」
「体なら部位を上げれば5、6個で終わりですけど、思考となると幾らでもあるので省略です。つまるところ。恋愛というのは距離の詰め合いなんですよ。体もいいし、頭脳でもかまいません。で、その距離の取り合いが、お互いに同一のものであれば、引っ張り合いになりますが、ベクトルがずれると、引き外し合いになる場合がある……と。今回はこういう結論です」
「で、最初に戻ると、遠距離恋愛は成立しにくい、と。でも身体的な要素以外で繋がりが、距離が近づけるなら問題無いかもしれない。逆に身体が幾ら近くにあっても、距離が遠くなってしまうことがある……っていうことでいいかしら」
「ま、そういう感じで一つ」
「うーん。やっぱり強引ねぇ」
「さて、一通りまとまった所で、いい加減ハンバーグが冷めそうなので、とりあえず食いましょう。パフェ、崩れかかってますよ」
「うわわ、ほんとだ。じゃ、改めて、頂きます」カチャリ
−−−
……アリガトウゴザイマシター
「……と言う訳で、ご馳走様」
「いえいえ、お気にせずにドーソー」
「そこはちゃんと気持ちよく返事しなさいよ……」
「ま、僕の下らない話にお付き合い頂いた事には感謝してますよ」
「……そーいや。なんであの話題、あたしに聞いた訳? 前もって妹にも聞いてるなら、妹でいいじゃない」
「あー……。えー、んー……。別に理由なんて必要あります? あえて言うなら、僕、そういう経験少ないモンで、そういう距離を意識した事ないんですよ。今回の戯言も、所詮は脳内妄想ですからね。まぁそれならそれで先輩のように割り切れれば良いんですが、そういう割り切る何かのファクターすら浮かばず。だから、サンプルが欲しかった、と。……その程度ですよ」
「ふーん。そう。……そういや結局答えてなかったから、一応答えておくと、あたしが求めてるのは領域なのかもね。あたしが知覚出来る全てを、極力近くして欲しいって感じ? 手でも、言葉でも、知識でも、気持ちでも、なんでも」
「はは、すごいな。それって相手のほとんど全部って事ですか? 我侭にもほどがありますよ」
「そーいうのってきっと、妥協しちゃダメなのよ。自分が何を求めてるのかは、はっきり認識しておく必要がある、のかもねー。漫画やドラマと同じようにやったり、人と同じように振舞っても、ダメな人はダメじゃない? だからそんなこと意識しても、本当は意味なんてないのかもしれないけど……自覚さえしていれば、相手に伝えることはできるもの」
「君が好きだと叫びたい、というわけですか」
「けどさ」
「ん? なんでしょう?」
「貴方は好きになった人を距離感が違うから、って理由で無関心になれるの? ……そんなの無理に決まってるじゃない。そういうモノじゃないでしょ。だから貴方達は脳みそ先行なの。お解り?」
「……それは、耳が痛いなぁ」
「ま、所詮こんなのは言葉遊びよ。愛だの恋だのほざくのは赤子の一人でも産んでからにしな!! ってk……冗談よ。そんな睨まないの」
「貴女の有り難いご意志は了解いたしましたよ。と言う訳で、お開きですね」
「はいはい。じゃお開きだけど……急に手ぇ取ったり、次いきなりやったら殴るから」
「事前に許可でも取ればよろしいのですか? お嬢さん?」
「うっさいわね! あと妹に同じことやっても殴るわよ!」
「なんという不条理(´・ω・`)」
「あーもー、とにかくこの話題は終了ー。ほら、リリエンタール4巻買いに行くわよー」
「そーいえば、WORKING!!9巻も出てるらしいですしね。じゃ、本屋行脚でもしましょうか」
「今から書き下ろしの一話が楽しみだわぁ」
「読切付いてくるんですかねぇ。ROOM303は実際載っていて欲しいな……でもトリガーキーパーも……両方はまず無理だし……」
「ほらほら。さっさと買いに行かないと売り切れるわよー」
「それは無いから大丈夫です。って自分で言ってて哀しいな。……では行きますか」